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エキストラ イニング

「物語は素晴らしい!」コミュニティ企画  「Autumn Story」お題小説

エキストライニング


 夏休みが終わってすでに1週間が過ぎた。
 2学期が始まったというのに夏休みの気怠さと攻撃的とも言える暑さは収まる様子がない。
 教室は静かで、シャーペンがカツカツと机にあたる音や紙の上を走る音が聞こえる。
 みんな下を向いて真剣に考え込んだ顔をしていた。
 当たり前っちゃ当たり前か。何せ今は授業中だ。
 だけど2年生のときの、騒いだり後ろの席の奴としゃべったり居眠りしてる奴がいた教室を思い浮かべると、やっぱしもう受験間近の3年なんだなあ、と思わずにはいられなかった。
 
 そういえば、いつの間にか蝉の声も少なくなってんな・・・・・

 「ちょっと、野田!野田!」
 「あ?」
切羽詰った小さい声で後ろから肩を叩かれ、俺はゆっくり振り向いた。
 後ろの席の早河が慌てた顔で見ている。隣の奴も心配そうに俺の顔を見ていた先に、先生が俺をじっと見ている姿が見えた。
 「お前も校庭で体育に参加してくるか?」
 「あ、い、いえ・・・」
 「カッコ3の答えを前に来て書け」
自分のノートは2番の途中で解くことを放棄していて、3番の問題は当然のように真っ白だ。俺は慌てて早河のノートを覗き込んで3番の答えを覚えこむと、一か八かの勢いで黒板へ向かった。
 「お前、再来週には統一テストあんだぞ?ぼけーっと外見てる暇なんてないぞ」
 先生にはそう言われて教科書で軽く頭を叩かれて終わった。
 その光景に笑う奴は誰もいなかった。


 俺だって勉強しなきゃヤバいな、って思ってる。毎日のように小テストや確認テストばっかだし。そのために休み時間だってみんなノートや教科書を握り締めていた。
 だけど・・・俺は・・・夏を抜け切れないでいる気がした。いや、「気がする」っていう現在進行形で。
 しかし、1年からやってた野球部は早々に引退していた。
 1回戦は幸い進学校の弱小チームで4-1で勝ち越したが、2回戦目で早くも敗退。しかもコールド負け。
 「目指せ甲子園!オー!」などという勢いあるチームでなかったことはたしかだし、俺もそこまで部活に燃えてたかっていうとそうでもなかった気がする。
 だから野球のせいで夏に勉強出来なかったってわけじゃなかった。
 だけど、この延びきったゴムみたいなやる気出ない感じはどうしようもなかった───


 「おー、野田じゃん」
後ろから早河が自転車をこぎながら近づいてきた。
 「なにー今から帰んのぉ?」
 「お前、俺のこの行動見て帰る以外に何すると思ってんだよ」
 「ん?これやると思ってる」
にかっと笑って前カゴから取り出したのはグローブ2つとボールだった。

 
 「なんか土手でキャッチボールとか久しぶりだねー」
 数メートル先からボールを投げながら早河が言った。
 「小学校の頃もよくここで亮二とキャッチボールしたよねー」
 あ、昔みたいに名前呼びになってる。
 そう思いながら山なりに投げられた緩いボールをなんなくキャッチした。
 「お前今日予備校とかあんじゃねーのぉー?」
同じような緩いカーブで早河にボールを返す。
 「んー?1回ぐらいサボったって馬鹿にはなんないよー」
笑いながら相手もなんなくボールをグローブにおさめる。
 そんなに大きくもない川が近くを通る土手で、小学生の遊び場やジョギングする人の利用場所ともあって夏場なのに雑草はあまり伸びていなかった。近くで小学生の楽しそうにはしゃぐ声が聞こえてくる。
 「亮二さー、志望校とかどこに行くか決まったあ~?」
 さっきよりも声は普段の会話と同じボリュームに下がっていく。
 俺はボールを手の中で遊ばせてから、やっぱり「まだー」と言いながら投げ返した。
 「お前は?」
 「あたしはー・・・・そうだな、なんとなく決まってきたー」
 そうだよな。夏を過ぎたこの時期に未だ進路に悩んでるなんて俺ぐらいか。それにこいつはなんだかんだで昔から俺よりしっかりしていた。
 緩いボールの投げあいはまだ続いていた。しばらくお互い何もしゃべらず、グローブがボールをキャッチする音だけが続いた。
 「あたしさー、小学生のころ、本気で野球選手になろうと思ってたんだよねー」
早河がおもむろにしゃべり始めた。俺は黙ってボールをとる。
 「でもさ~、途中からなんかやっぱり無理だなって気付いたんだ。なんとなく。そもそも女が野球選手とか無理なのに!」
 思い出し笑いでもするように、でもどこか渇いた笑い顔をした。
 お前だったらいけたよ。とはさすがに言えなかった。小学5年生くらいまでの早河は4番バッターをするほどチームの誰よりも野球が上手かったし、誰よりも足が速かった。そういえば早河が野球をしなくなったのはいつからだっただろ・・・
 「それでさー、5年生のとき、亮二怪我したじゃん?バックホームに勢いよく突っ込んで骨折したやつ!」
 「ああー・・・そんなこともあったっけ。お前よく覚えてんな」
 「そうだよ、あれ見てあたし「野球無理だなー」って思った」
 声を出して笑いながら早河が言う。
 「なんだよそれ。俺のせいで野球やめたのかよ」
 「違うよ。逆に違う夢見つけたの。・・・・・・整体師になること!」
早河がボールを投げて寄こした。
 「・・・それ、俺の骨折と関係あんのかよ」
 「充分あるよ!亮二の怪我治した先生がかっこよかったから!」
 思わず噴出した。「なんだよそれ!!」
 自分で言っておいて早河も笑っていた。
 「ま、もうひとつの夢は亮二のせいで潰えたからね」
 「なにそれ」
ボールを投げようとした手が一瞬止まる。
 早河は両手を胸に当てて少し声色を変えて、
 「『たっちゃん、みなみを甲子園に連れてって』」
冗談なのか本気なのか、真面目な顔で言った。
 「似てねぇえ!!」
早河は溜息混じりに俺が少し強く投げたボールをキャッチする。
 「はあ・・・やっぱりウチのチームは甲子園は無理だったね」
また弱い球を投げてくる。
 「でもさ・・・・・・お前試合毎回見に来てたよな」
 「気付いてたんだ」
 「そりゃあ~・・・・」毎回バッターボックスに入る前にお前の姿を確認してた。とまでは言えなかった。代わりに「お前、なんか目立つから」と意味不明な発言をしてしまう。
 早河はそれにも笑って投げられたボールをキャッチしていた。
 「亮二もさ~、夢とまでは言わなくてもなんか目標つくったほうがいいよ。あんた最近ぼけーっとしすぎっ!」
 こいつ俺のことよく見てんな。というより俺がそれほどにぼけーとしてんのか?
 「だって・・・なんつーか・・・・・・最近やる気とか勉強する気も湧かねーっつうか・・・」
最後のほうは独り言のようになっていた。
 「じゃあさ!!」早河がさっきよりも大声で言った。「あたしがあんたの目標決めてあげる!!」
 「どんな?」
 「亮二は次の統一テストで全教科平均点以上とる!!」
 「なにそれ・・・無理でしょ普通に!」
 「それで、あたしも志望校を安全圏に近づけるように頑張って・・・・それで告白するの!!」
勢いよく投げた早河のボールは悪送球となって、俺のグローブをかすめて落ちた。
 ころころ転がるボールを拾う。
 「なにそれ・・・わけわかんねぇー。つか俺のテストとどう関係あんだよ・・・」
 「お互い恋愛してても成績落ちない証拠をつくるのっ!!」
 「え・・・・・・それ、誰と誰の話・・・・・・っすか」
 「あ・・・あんたとあたしのに決まってるでしょ」
 早河の顔が赤くなってるような気がする。夕日のせいか?
 いや、それよりも俺の顔の方が赤くなってってる気がする。
 ふたりの間に沈黙の時間が流れた。なんて言われるか、またなんて言おうかとふたりして突っ立ったままだ。
 俺は右手に持ったボールを見つめながら───胃と腹の間からなにか押しあがってくる感覚があった。
 それが胸、首まで上がっていって最後はそれが口元で緩んだ。
 「───いいよ!受けてたとうじゃん!」
力強く早河にボールを投げた。早河のグローブの中でバシッといい音が返ってくる。
 恥ずかしそうに。でも早河の顔がだんだん嬉しそうな顔に変わっていった。
 「じゃあ、あんた今から死ぬ気で勉強しなよ!!」
 そういって両腕をゆっくり上げる。懇親の一球を投げるピッチャーのような構え。
 そして右手を一気に振り投げた。

 投げられたボールは真っ直ぐには飛ばず、右斜め頭上に向かっていく。


 俺は夕日に照らされて光るボールをキャッチしようと走り出した ─────







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