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この月明かりの下で 3

 第三夜  木漏れ陽だけが彼らの出逢いをささやいた・・・



 うつ伏せになって横たわる狐をもう一度見やると、背中には血の滲んだ怪我のほかにも細かい古傷がいくつも見られた。耳も右片方がなくなっている。しかも腰には脇差や多くのクナイを身につけていて、格好も清が見たこともない身なりをしていた。
(この方はいったいなんなのかしら・・・)
 清は、此処に迷い込んでくるまでの彼の経緯を想像した。そもそもこんな山奥の聖地に、しかも隣山に住む狐が迷い込んでくることなんてあるのだろうか。
  
 「っく・・・」
青年が小さく呻いて顔をしかめた。
 「大丈夫!?」
それに気がついて清が顔を覗き込もうとした刹那、彼はハッと目が開いたかと思うと勢いよく後ろに跳び退った。
 清が驚く間もなく、腰からクナイを引き抜き胸の前で構える。
 清に向けられる瞳は鋭く、殺気立っているようだった。息遣いも荒い。
 「大丈夫、なにもしてないわ・・・ただ背中の傷の手当てをしていただけ」
 狐は彼女をじっと睨んだ。
 まだ警戒する心を崩さなかったが、それでも清に攻撃してくる念がないのを感じると、構えていたクナイをゆっくりと下ろした。それと同時に立ち上がろうとしてぐらりとよろめいた。
 「まだじっとしてないと!」
 「・・・これくらいの怪我、大丈夫だ」
そう言いながらも、片方の耳はひくひくと逆立っている。
 「駄目よ。傷の出血もひどそうだったし・・・それにあなた足も怪我してるわ」
 「大丈夫だ。痛みなど感じない」
 立ち去ろうとする青年は、やはり左足をびっこをひいていた。
 それを見た清は、思わず彼の手をはしっと掴んだ。
 「せめて足首を固定したほうがいいわ・・・それじゃあ帰るのも辛いだろうから」
 青年は戸惑ったように、清をじっと見た。
(あ、瞳の色が蒼と灰色でそれぞれ違う・・・)
 清も青年の瞳を綺麗さにまじまじと見とれてしまうと、ふと自分が瞳の中に映っていることに気がついた。
 下を向くと、湖から上がったばかりの濡れた体にそのまま薄い下衣を羽織っていただけであった。衣が体に張り付いて肌が透けて見えている。
 「あっこ、ここれはあのっ」
 掴んでいた彼の手を急いで離すと、あまりの恥ずかしさに清は顔を赤めらすどころではなかったのであった。
 
 ちゃんと着物をきた清は、見つけてきた枝を彼の足首の両側に巻きつけた。
 勢いのままに自分から傷の手当てをしようと言い出してしまったが、果たしてこんな治療法でよかったのかと不安になってきていた。ほとんどを屋敷で過ごす清には、今まで骨折するなどの大きな怪我をしたことがなかった。
 しかしその間も狐の青年は黙ったまま、紐で巻かれていく自分の足をじっとみていた。
 「あの・・・」
清が言いかけた言葉に目を上げた青年を見て、彼女は「何故ここに来たのか」と聞こうとした言葉を出せなくなった。
 何故だか、それを彼に聞いてはいけないような気がした。
 「手当て・・・こんなもので良かったかわからないけど」
 「平気だ。先ほどより少しは楽に動ける」
 重い怪我のはずなのに、それでも随分と軽々しく立ち上がると山の奥へと立ち去ろうとした。
 「あ、あの!」
 青年の後姿に清は思わず声をかえた。
 「せめて・・・せめて名前だけ教えて」
 「・・・ソウだ」
 「ソウ・・・。どんな字を書くの?」
 「“立つ風”とかいて颯」
 「立つ風・・・わたしはキヨよ。“清らか”とかいて清」
 「清か・・・きれいな名前だ。手当てをしてくれてありがとう」
 
 そう言って立ち去った颯に、清は一瞬だけ笑顔を見たような気がした───



 


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【用語・読み解説】 (灰字→広辞苑より抜粋) 


* 脇差(わきざし)・・・左腰に差すように作った短い刀。
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| この月明かりの下で | 04:17 | comments:7 | TOP↑

COMMENT

ふつくしい^^

ひどい怪我をしている颯、かなり気になります。

| いき♂ | 2010/02/09 12:43 | URL | ≫ EDIT

>いき♂さん
実を言うとこんな絵にかなりの時間をかけましたw
なのに描いてるうちにだんだん最初のイメージと違ってきちゃってて・・・
と、ちょっと落ち込んでいたので
コメントもらえて嬉しかったです^^


次回は颯視点で物語が進むので
よかったらまた覗きに来て下さい♪

| 神楽崎@管理人 | 2010/02/17 00:29 | URL | ≫ EDIT

はじめまして
コミュニティより流れてきました。

続きwktk。いいなぁ、こんな感じの優しい小説。

またきまーす!

| 真野橋ヤツカ | 2010/02/19 01:53 | URL | ≫ EDIT

はじめまして!
コミュニティより流れてきました。

続きwktk。いいなぁ、こんな感じの優しい小説。
少しだけ悲恋な展開が待ってそうだけど・・・・・・

またきまーす!

| 真野橋ヤツカ | 2010/02/19 01:55 | URL | ≫ EDIT

>真野橋ヤツカさん
はじめまして!コメントありがとうございます^^

続きwktkしてもらえて嬉しいです(●>v<●)
恋愛小説はそうそう書かないので
うまく物語をすすめられるか本人もひやひやしてますがw

よかったらまた覗きに来て下さい♪

| 神楽崎@管理人 | 2010/02/21 02:06 | URL | ≫ EDIT

素敵ですねぇ
素敵な絵ですね。
しみじみと見入ってしまいます。

小説も透明感があって、澄んだ清流のような感じ。

次回を楽しみにしています。

| 雪子ちゃん | 2010/08/16 14:53 | URL | ≫ EDIT

>雪子ちゃん
ブログまでお越しくださるとは・・・!
しかも小説まで読んでくださって・・・ありがとうございます(つω`*)

「続きが気になる」と言ってもらえる物語を書くのが自分の目標なので
コメントもらえてすごく嬉しいです。


次回も気になるような展開を早く(←ここ重要w)載せられるように頑張りたいと思います。

| 神楽崎@管理人 | 2010/08/18 01:38 | URL | ≫ EDIT















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