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この月明かりの下で 6

第六夜  畿望の光は明日を見据えて・・・

moon06s.jpg


 颯は闇者しか通れないケモノ道を迷うことなく進んでいった。やけに静かだ。小鳥のさえずりが遠くのほうで秘かに聞こえるぐらいだ。小さな獣たちがいない。
 稲荷山に住まう獣たちはどんなに小さな生きモノでも神聖であるとされ、狩りのとき以外は血の臭いを避ける、と聞いたことがある。もしかしたら俺の血なまぐささに逃げて行ったのかもしれないな。颯はそう思いながら闇者の屋敷へと向かった。

 草木に隠れるように木の門が見えてきた。
 いつもふたり立っているはずの門番が今日は一匹しかいなかった。
 「颯さま!?風の颯さまでいらっしゃいますか!」
颯の姿を見るなり門番は驚いて、そして喜びの顔へと変わっていった。次に傷だらけの顔、着物についた黒々しい血のシミや足に巻いた布から滲んでいる赤いそれを見ていって苦々しい表情になる。
 「帰りが遅くなってすまない。あの夜から歩いてきたのだが、ずいぶんと遠くへと行ってしまっていた・・・」
 「ご無事で・・・なによりでした。生きていてよかった」 
 彼は颯の肩に優しく手を置いた。門番の暗くなった顔をみてはっとした。
 「快は・・・快は帰ってきているのか」
 「ええ・・・ええ!」
 ぱっと顔を上げた門番が思い出したように背中の門を押し開けた。
 「颯が帰ってきたぞー!オイッ、快!かーーい!」
 静かな屋敷に向かって門番が叫んだ。少ししてふわっと風が吹いたかと思うと、快が現れた。
 彼の青みがかった薄灰色の毛がふわりと揺れる。
 颯は彼のなんともない姿をみて、ほんの少し詰まっていた息を吐いた。
 「ソウ・・・お前ほんとに颯だよな!」
 「俺のほかに誰がいるんだよ」
 言うなり快は飛びついてきた。
 「だーーー!!ったくよぉ帰ってくんのおせーんだよ!死んじまったんじゃないかって心配したんだからな!」
 「心配って。刻印が消えてないんだから生きてるってわかるだろ」
 闇者は基本二人一組で構成され任務のときは常に共に行動をする。組はそれぞれ日、月、水、土、木、風、天、地と名を振り分けられ、同じ組になったモノは互いにしか知りえないところに“生”を分け合う印を刻むのだ。その刻印が消えたとき、つまりはどちらかの命がなくなったことになる。
 「あれえ?おかしいな、なんか刻印が消えかかってた気がしたんだけど」
 快はおどけて言った。「それより痛いから離れろ」と訴えたことで彼はやっと腕の中から颯を解放した。
 「それよりお前あっちこっちひでえな、特に背中とか。医務室行ったほうがいいぜ」
 「ああ、わかってる。それより快はいつ戻ってきたんだ?」
 「あの夜の・・・そうだな、明け方には。けどな・・・ほとんどのやつがあれからまだ帰ってきてない」
 「・・・・そうか」

 そこに音もなく黒影が現れた。漆黒の着物に身を包んだ“影のモノ”だ。
 「頭領がお待ちです」
 先ほどまでの雰囲気を一変するほど、静かにはっきりと言った。
 “影のモノ”とは頭領の右腕として仕え、素顔を薄い布でまとい、その姿や声色まで男とも女ともわからない。闇者とは違い単独で行動をし、頭領だけが彼ら影のモノの素性を知りえるのだ。
 颯が小さく頷くと、影のモノは現れたときと同じように空気を少しも動かすことなく姿を消した。
 「・・・だってさ」
 張りつめていた空気を戻すように快が言った。

 屋敷の医務室へ行き怪我の治療と着物を新しいものに着替えると、颯はひとり屋敷の一番奥、頭領の部屋へと向かった。
 ふすまの前に行くと、颯が声を出すより前に「入れ」と中から声がした。
 「失礼します」
 中に入ると、正面奥に頭領が迎えるように座っていた。傍らの陰に“影のモノ”がひとりいるが、果たして先ほどのモノなのかはわからなかった。
 颯は頭領の前まで行くと、片膝をついて頭(こうべ)を垂れた。
 「まずは、戻って何よりであった」
 「はっ!遅くなってしまったこと、大変申し訳なく思います」
 「よい。顔を上げよ」
 ゆっくりと顔を上げた。腰まである白く長い毛、同じくらい白く真上にピンとたった狐耳、威厳ある出で立ちと紫の色をした鋭い眼光がこちらを見ていた。
 「あの夜は何があったか申してみよ」
 「・・・計画通り、狸衆の巫女屋敷への侵入を試みましたが、塀を超えたあたりで待ち構えていた狸衆のモノに迎え討ちされました。彼らはわたしたちが来ることを知っていたようです・・・最中に誰かが間者がいたと叫んでいたのを耳にしました」
 「・・・そうか。実はあの夜の任務から帰ってきたモノは少ない。死体が発見されないのでは、狸が誰に化けていたのかも今となっては知る由がないな」
 颯はうつむいた。計画が立てられたことを知っているとなると狸が紛れていたのはそう最近ではないはずだ。きっと変化されていた狐のモノは川に流されたか・・・とっくに自然に返っているだろう。
 「しかし間者が紛れていたとなると、狸のやつらもずいぶん腕をあげたことになるな。術ならば狸に劣らぬ自信があるが、見破れないとなると変化は狸のほうが上かもしれん」
 頭領は指の腹を擦り合せながら言った。
 「して、颯に新たな任務を言い渡す」
 「はっ!」
 「中秋の名月に狸衆で宴が行われることは知っておるな?ちょうど月があと一回りした満月の晩だ」
 「存じております」
 「その宴には巫女がくるが、姫巫女も姿を曝すらしい」
 姫巫女。次期巫女になる、狐衆でいういわゆる狸衆の帝だ。
 「颯には、その宴の場に吹枝隊といて紛れてほしい。要は姫巫女の偵察だ。たしか神笛は吹けるであろうな?」
 「はい、近頃ではずいぶんと吹いておりませんが・・・宴までに練習をすれば吹き方も思い出すと思います」
頭領は少し笑って頷いた。
 「宴では各所の衆が集まる、顔も面で隠れるからその耳をわからないであろう。音色で素性がバレぬようしっかり頼む」
 「御意」
 颯が立ち上がったところに、頭領が「待て」と声をかけた。
 「怪我がひどいと聞いたが大丈夫か」
先ほどまでと違い、その声色は父の声になっていた。颯は父の顔をみて肩の力を緩めると「大丈夫です」と小さく言った。
 「こちらもずいぶんと痛手を負ってしまった。ゆっくり治療してもらいたいが、頼むものがそなたしかおらんのだ」
 「平気です。それに久しく笛に触っていないので良い機会です」
 「また颯の音色を聴けるのだな」
父が笑ったのを見て、颯は少し頷いてみせて「失礼します」とだけ言って、その場をあとにした。



 

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【用語・読み解説】 (灰字→広辞苑より抜粋) 

* 畿望(きぼう)・・・幾(ほとん)ど望(もち)(満月)に近い意。陰暦一四日の夜。また、その夜の月。
* 吹枝(ふくえ)・・・笛のこと。笛の語源ともされている。
* 神笛(しんてき)・・・宮廷の御神楽(みかぐら)に用いられる横笛。神楽笛(かぐらぶえ)ともいう。
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